※当該記事は横浜市立大学ウェブサイト「【留学生×日本人学生】IKEA港北へ学生たちが多様性高いチームを組んで企画提案」(2023.01.30)の転載です。(転載元の記事はこちら

「多文化協働プロジェクト」

 2022年の秋より始まった本プロジェクトは、IKEA港北に全面協力いただき、店内見学やスタッフの方々とのダイアログ(対話)の中で、学生たちが自ら課題を見つけ、それに対する解決案を提案するというものです。本プロジェクトには、国際商学部の吉永崇史*1ゼミ(経営組織論)の学生13名と留学生の10名、合計23名が参加しています。

 学生たちは、実際の企業の現場で企画立案、提案、実施を通じ、実行力などのビジネススキルを伸ばせるだけではなく、留学生や日本人学生同士が企画実現に向けた話し合いを重ねることで、多様な価値観を学ぶことができます。さらに留学生にとっては「日本で働くこと」のイメージについて、実際に日本で働いているIKEA港北の皆様 とのダイアログを通じて展望し、キャリアを考えるきっかけへとつながっています。

 また本プロジェクトは、イケア・ジャパン株式会社と包括連携協定を結ぶ横浜市より協力を得ながら企画進行しているほか、YCUにおいては文部科学省の留学生就職促進教育プログラム*2に認定されたYCU-ADVANCE Programの一プログラムとして進行しているため、キャリア支援センターと連携体制をとりながら運営しています。

学生が感じた課題点で共通していたのは「サステナビリティ」

 学生たちの発表は全5チームで、ほとんどのチームで共通した課題認識を持っていました。イケアは、企業が事業活動を通じて環境・社会・経済に与える影響を考慮し、長期的な企業戦略を立てる取組であるコーポレート・サステナビリティにおいて非常に力を入れている企業です。また、その考えは、働いているスタッフにも浸透しています。

 各チームの発表の中で報告されていた、IKEA港北スタッフと学生によるダイアログの内容を通じて、発売されている商品や資源はもちろんのこと、スタッフ1人ひとりが無意識のレベルで、常にサステナビリティを意識して行動しているように感じました。多くのチームはこの行動へ共感したと同時に、自分たち顧客側との“差”を感じたのではないでしょうか。イケアにとっては当たり前に根付いているサステナビリティへの思いや取組が自分たちの世代の顧客には伝わっていないこと。その温度感の“差”こそが課題であると考えた学生からの提案では、その“差”を埋めるために、お客様にIKEA港北のサステナビリティな部分を店頭ディスプレイとして掲示するという案や、Z世代が購入しやすいアイテムに限定してアプローチするなどの提案がありました。

2つのチームから出たフードビジネスという解決策

 イケアのサステナビリティへの意識の高さをどのように消費者へ伝えるか。学生たちは、商品を通じてPRすることを考えました。そこで提案があったのは、「イケアの食料品・フードメニューというのは、おいしくて、地球にもやさしいプラントベース(植物由来)の食品が多く、サステナビリティを感じつつ、気軽に手に取るハードルが低い商品なのではないか。また、新規顧客開拓という観点に目を向けても、例えばイケアの家具は購入ハードルが高くても、食料品やフードメニュー、キッチン用品などは比較的安価であり、手に取りやすいのではないか。同時に、それらの販売を通じてサステナビリティをうまくPRできるのではないか」というアイデアです。

 例えば、近くに住んでいるが来店したことが無い地域住民に対してはIKEA港北の店外スペースを活用して屋台を出店して気軽に遊びに来ることができるようにする、一人暮らしなどで家具をあまり買う機会の無い大学生などに対して大学内までキッチンカーで出張に来てもらう、などの提案がありました。

「YCUのキャンパスにキッチンカーをぜひ呼びたいんです!」とプレゼンテーションに熱が入る学生もいて、今後の展開に向け、期待が高まります。

IKEA港北スタッフからの的確なフィードバック

 本プロジェクトの真髄は企業側から真摯なフィードバックがその場でいただけることです。各チームの発表後に、1つひとつ丁寧にコメントを貰うことができ、学生たちはそのアドバイスによって一回りも二回りも成長することができます。

 「辛口が良い?甘口が良い?」と言ってコメントを話し始めたのはキャプテンこと、IKEA港北のMarket Manager (店長)である菅野秀紀様です。

 学生たちから「辛口でお願いします」とリクエストが挙がったこともあり、「斬新な発想と提案は新しい気づきを与えてくれる」としながらも「マーケティングやお客様を考えた際に、提案内容に足りない部分がある」とコメント。そこを一つずつ丁寧に解説いただくとともに、発表の際の声の大きさや速さ、体の向きや資料のつくり方など、プレゼンテーションの仕方もアドバイスしていました。

 Local Marketing Managerの山下りえ様と、店内のルームセットを初め、商品の見せ方や、コミュニケーション全般を担当しているCommunication and Interior Design Managerの田中美加子様からも、「実際の体験談をプレゼンテーションに入れたのは良かった」「アイデア自体は面白い」などのコメントもありつつ、「ロジカルに提案内容を考えるまでは良かったが、その先の具体的な提案が無い、違う切り口でのアプローチもできたのではないか」といった提案内容に関するアドバイスがありました。さらに、「お客様のことを一番に考えたら、その手法は嬉しいのか」など、顧客目線で考える大切さについても、企業側ならではの目線でアドバイスをいただきました。

貴重なコメントの数々こそが成長の糧

 本プロジェクトの運営を担当しているキャリア支援センターの河瀬恵子*3キャリア支援コーディネーターは、「このプロジェクトは、3か月にわたるストア視察やIKEA港北スタッフとのダイアログを通じて、留学生と日本人学生が協働しながら自分たちで課題を設定し、ゼロから企画を立ち上げ提案するという非常に難易度の高い取組であった。同時に、IKEA港北の方からビジネス視点の改善フィードバックを頂き企画のブラッシュアップをするという非常に貴重な経験もできた。これら一連のプロセスを通じて、皆さんは想像以上に大きく成長したはずである。」と学生たちに伝えました。 社会に出てから経験するプロセスをいち早く体験しながら学ぶことができるだけではなく、「もしかしたら自分たちの提案が実現できるかもしれない!」というワクワクした可能性を秘めたプロジェクトとなりました。

 最後に、キャリア支援センター長でもあり、本プロジェクトに参加しているゼミ学生たちの指導教員でもある吉永崇史教授は「これまでの提案とは違って、ここから先、何かを実現しようとすると必ずリスクが伴う」と発言。今回の提案から出たアイデアを実現まで進めようとすることで、ここにいる全員が時間を割いて、様々なリスクを背負った上で、動かなくてはいけないことを理解してほしい、だからこそ、やるならば本気でぶつかってほしいと伝えました。そして、「ここから先の苦労は大変だろうけど、ぜひ皆さんにはリスクを取って成長する機会として捉えてほしい」と締めくくりました。

<リンク>

国際商学部

IKEA港北

YCU-ADVANCE Program

<用語説明>

*1 吉永 崇史:

横浜市立大学国際商学部/国際マネジメント研究科国際マネジメント専攻教授。博士(知識科学)。1998年より三井信託銀行に勤務。北陸先端科学技術大学院大学での博士号取得後、富山大学での勤務を経て、2013年に横浜市立大学に着任。経営組織論、ダイバーシティ・マネジメント、ナレッジ・マネジメントを中心に、多様性を活かして知識創造を志向する経営組織と、組織活性化のための効果的なコミュニケーションについての研究・教育活動を実施。 文部科学省高等教育局障がいのある学生の修学支援に関する検討会委員、横浜市男女共同参画審議会委員等も務める。

*2 文部科学省 留学生就職促進教育プログラム認定制度:

外国人留学生に対する「日本語教育」、「キャリア教育」、「インターンシップ」を一体として提供する質の高い教育プログラムを文部科学省が認定し、当該プログラム修了者が、就職活動において各大学が発行する修了証明書を提示することにより、外国人留学生の国内企業等への就職を一層促進することを目的としたプログラムである。

*3 河瀬 恵子:

本学キャリア支援センターのキャリア支援コーディネーターであり、文部科学省認定制度「YCU-ADVANCE Program(留学生就職促進教育プログラム)」を中心とした、キャリア形成支援科目、インターンシッププログラムの企画、産官学連携推進を担当。国家資格キャリアコンサルタントを取得している。

<当日の様子>

チーム1
チーム2
チーム3
チーム4
チーム5
IKEAの皆様